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大阪地方裁判所 平成9年(ワ)225号 判決

原告

中島重信

ほか一名

被告

中山秀雄

ほか一名

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告らは、各自原告中島重信に対し金二〇七二万九〇三〇円、原告中島節子に対し金二〇七二万九〇三〇円及びこれらに対する平成七年一二月二五日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、信号機による交通整理の行われている十字型交差点を横断しようとしていた足踏み式自転車と直進普通貨物自動車とが衝突し、足踏み式自転車の運転手が死亡した事故において、遺族が、普通貨物自動車の運転手に対して、民法七〇九条に基づき、右運転手の使用者である会社に対して、自動車損害賠償保障法三条、民法七一五条に基づき、それぞれ損害の賠償を求め、過失割合等が争われた事案である。

一  争いのない事実等(証拠及び弁論の全趣旨により明らかに認められる事実を含み、( )内に認定に供した証拠を摘示する。)

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成七年一二月二五日午前一一時五分ごろ

(二) 場所 大阪府東大阪市本庄中二丁目三五番地先

(三) 加害車両 被告福山通運株式会社(以下「被告会社」という。)が所有し、被告会社が使用する被告中山秀雄(以下「被告中山」という。)が、被告会社の事業のために運転中であった普通貨物自動車(登録番号大阪一三く一八七二、以下「被告車」という。)(甲第一、第二)

(四) 被害車両 訴外中島知恵子(以下「知恵子」という。)運転の足踏み式自転車(以下「原告車」という。)

(五) 事故の態様 交差点を右折しようとしていた原告車と直進被告車とが衝突した。

2  知恵子の受傷及び死亡

知恵子は、本件事故により、脳挫傷の傷害を負い、即死した(甲第四の二)。

3  原告らは、知恵子の両親で、その相続人である(甲第三)。

4  損害てん補

原告らは、本件事故に関し、自動車損害賠償責任保険(以下「自賠責保険」という。)から二一〇二万一五二〇円を受領し、それぞれ、その二分の一ずつ損害に充当した(弁論の全趣旨)。

二  争点

1  被告らの責任の有無、過失割合

(原告らの主張)

(一) 被告中山は、本件交差点に進入する際、交差点手前には右折する車両が停止していて、交差点内の見通しが困難であったから、反対方向から右折してくる車両の有無に注意し、できるだけ安全な速度と方法で進行すべき注意義務があるのにこれを怠り、本件事故を発生させた過失があるから、民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償する義務がある。

(二) 被告福山通運株式会社(以下「被告会社」という。)は、被告車の所有者であり、被告中山の使用者であって、本件事故は被告中山が被告会社の事業のために運転中発生したものであるから、被告会社は自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条、民法七一五条により、原告らが被った損害を賠償する義務がある。

(被告らの反論及び主張)

(一) 知恵子は、足踏み式自転車で交差点を右折するに際し、道路交通法に定められた右折方法に違反し、いわゆる早回り右折で右折したもので、本件事故は知恵子の一方的過失により生じたものである。

また、知恵子が東から西に向かうべく本件交差点に進入したとすれば、対面信号機が赤色の状態で横断した過失がある。

(二) 被告中山は対面信号の青色表示に従って交差点に進入したものであって何らの過失もなく、また、被告車には構造上の欠陥、機能の障害もないから、被告中山には民法七〇九条に基づく責任はなく、被告会社は民法七一五条及び自賠法三条に基づくいずれの責任もない。

(三) 仮に、被告中山に過失が認められたとしても、知恵子の過失に比すれば、遥かに小さなものであるから、大幅な過失相殺がされるべきである。

2  損害(原告らの主張)

(一) 治療費 一七万五〇二〇円

(二) 葬祭費 二二七万二六〇〇円

(三) 逸失利益 三六〇三万一九六〇円

平成六年度賃金センサスの産業計・企業規模計・旧中・新高卒・女子労働者の一八歳から一九歳の平均年収二一〇万八二〇〇円を基礎にして、控除すべき生活費を三割とみて、新ホフマン式計算法により、就労可能年数四九年に対応する年五分の割合による中間利息を控除して、右期間の逸失利益の現価を算定すると、右のとおりとなる。

(四) 慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

(五) 弁護士費用 四〇〇万〇〇〇〇円

第三争点に対する判断

一  被告らの責任の有無(被告らの免責の可否)、過失割合

1  証拠(甲第四の一及び三、乙第一、被告中山秀雄、弁論の全趣旨)によれば、

本件事故現場は、ほぼ南北方向の、歩車道の区別のある片側三車線の幅員約二五メートルの道路(中央分離帯部分約三メートルを含む。以下「南北道路」という。)と幅員約七ないし八メートルの道路とによって形成されている十字型交差点内の北行き車線上であって、南北道路の最高速度は時速四〇キロメートルに制限されていること、本件事故現場付近は市街地にあり、道路の見通しは前方は良いが、左右共悪く、付近の道路はアスフアルト舖装され、平坦で、本件事故当時は乾燥していたこと、

被告中山は被告会社の支店に帰る途中で、本件交差点の北にある次の交差点(以下「北交差点」という。)を右折する予定であったこと、被告中山は本件交差点の南にある交差点(以下「南交差点」という。)で信号待ちのため、南北道路の中央車線に停車していた升谷嘉男(以下「升谷」という。)運転の四トン・トラック(以下「升谷車」という。)の後ろに停車をし、青信号に変わったので、先行する升谷車に続いて南北道路の中央車線を北進したこと、南交差点から本件交差点までは約七〇メートルの距離があること、

升谷は右に車線変更、減速し、升谷車の先頭部が本件交差点南詰めの横断歩道の北端に差し掛かった辺りで、交差点北詰めの中央分離帯付近を対向から斜めに走行してくる原告車を発見し、升谷車は更に四・八メートル進んだ地点で停止したこと、

被告中山は、北交差点で右折する予定であったので、一旦右に車線変更し、別紙図面〈1〉で本件交差点の対面信号が青色であるのを見たこと、被告中山は、升谷車が右折の合図を出したので、再び中央車線に戻り、時速約四〇キロメートルで走行していたところ、〈2〉で原告車を発見し、急ブレーキをかけたが、〈3〉でイの原告車と×で衝突し、衝突後、知恵子はエに、原告車はウに、被告車は〈4〉に転倒していたこと、

本件事故現場には被告車のスリップ痕(左右前輪各八・二メートル、左右後輪各八・〇メートル)が北行車線の停止線付近から北に印象されていたこと、

以上の事実を認めることができる。

2  右の事実によれば、被告中山は、本件交差点に進入するに際し、右折待ちの停止車両のために、進行方向右側の見通しが悪く、対向右折車等の有無に気づきにくい状況にあったのであるから、右前方に対する注意を尽くすべきであったのに、右前方に対する注意が不十分なまま交差点に進入した過失が認められ、他方、知恵子には、本件交差点を西に横断するに際し、交差点東端を南下し、南端を西に横断すべきところを、交差点中央を右折したものであるから、赤信号を無視をして横断するのと等しい過失があるといわなければならず、本件事故に関する知恵子及び被告中山の過失割合は、双方の車種、本件事故の態様等を総合考慮すれば、概ね、知恵子が六、被告中山が四と解さざるを得ない。

二  損害

1  治療費 一七万五〇二〇円

証拠(甲第七の一から五まで、弁論の全趣旨)によれば、治療費(関係文書費を含む。)として一七万五〇二〇円を要したことを認めることができる。

2  葬儀費用 一〇〇万〇〇〇〇円

葬儀費用は右金額をもって相当と解する。

3  逸失利益 二五七三万七一一六円

証拠(甲第一、第三、第六の一、第九、第一一、原告中島重信、弁論の全趣旨)によれば、知恵子(昭和五二年四月二五日生まれ、本件事故当時、満一八歳、女性)は、本件事故当時、大阪市立東商業高校三年に在学中であって、その両親である原告らと共に暮らし、平成八年三月には高校を卒業する予定であったこと等の事実を認めることができ、原告ら主張にかかる平成六年度賃金センサス第一巻第一表の産業計・企業規模計・女子労働者・旧中・新高卒の一八歳から一九歳の平均年収が二一〇万八二〇〇円であることは当裁判所に顕著な事実であるから、知恵子は就労可能上限年齢である六七歳までの四九年間は稼働可能であって、右期間中右平均年収程度の収入を得られ、生活費控除率は五割とするのが相当と解されるので、これらを前提にして、右の四九年に対応する年五分の割合による中間利息をホフマン式計算法により控除し、知恵子の逸失利益の現価を算出すると、右のとおりであるから、原告らの主張はその限度で理由がある(円未満切り捨て。以下同じ。)

(算式) 2,108,200×(1-0.5)×24.4162

4  慰謝料 二〇〇〇万〇〇〇〇円

知恵子が本件事故当時、両親及び兄と共に四人家族で暮らす、高校三年に在学中の一八歳で、本件事故により即死したこと、本件事故の態様、その他本件に顕れた一切の事情を考慮すると、慰謝料としては、原告ら主張の二〇〇〇万円をもって相当と解する。

三  前記二の損害額合計額四六九一万二一三六円につき、前記一の過失割合に基き過失相殺による減額を行うと残額は一八七六万四八五四円となる。

四  損害てん補

前記争いのない事実等によれば、原告らは、本件事故に関し、二一〇二万一五二〇円を受領したことが認められるから、前記三の過失相殺による減額後の残額一八七六万四八五四円は既にてん補されていることとなる。

五  以上のとおりであって、原告らの請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 石原寿記)

別紙図面

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